仮想通貨の取引は個人ではもちろんのこと、法人として行うことも可能です。特に、仮想通貨取引で一定額以上の所得を得ている人は、法人化することが節税対策のひとつになる可能性があります。
この記事では、「法人として仮想通貨の取引をすると節税になる可能性がある」といわれる理由を具体的に説明するとともに、法人として取引することのメリット・デメリットを解説していきます。
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法人での仮想通貨取引を勧める大きな理由は税率が低くなる可能性があるから
仮想通貨取引で所得が発生した場合、主に個人には所得税が、法人には法人税がかかります。法人税とは、個人でいうところの所得税に該当するもので、所得に応じて税率が異なります。
個人・法人の所得にかかる主な税金は、それぞれ以下の通りです。
個人:所得税、住民税、復興特別所得税 法人:法人税、法人住民税、特別法人事業税、地方法人税、事業税 |
上記のように課税される所得対象にはいくつか種類がありますが、個人においては所得税、法人においては法人税が所得に対してかかる税金として大きな割合を占めています。
そして、個人と法人では課税される税金の種類が異なるだけではなく、その税率においても違いがあります。
税率の詳細については後述しますが、結論から言うと所得税よりも法人税の方が最高税率が低く設定されているのです。そのため、仮想通貨で一定金額以上の所得を得ている個人は、法人を設立することで節税につながる可能性があります。
なお、個人で仮想通貨取引で所得が発生した場合の税率や確定申告の方法についておさらいしたい方はこちらをご覧らください。
所得税と法人税の税率
個人が仮想通貨で所得を得た場合、所得税のうちの「雑所得」として課税対象となります。その税率は5%〜45%です。雑所得は給与所得などと合算して課税され、金額が大きくなる程税率も大きくなります(「超過累進課税」といいます)。
税率は所得金額により以下のように決められています。
所得金額 税率 控除額
ただし、実際の確定申告においては、復興特別所得税(平成25から平成49までの各年分)の合計税率および住民税を併せて申告・納付する必要があります。住民税の税率が10%なので、最高55%程度の税率がかかることになります。
一方、法人税の税率は15%〜23.20%で、最高税率を比較すると所得税の約半分の税率となっています。
ただし、法人においても住民税や事業税などの税金がかかることから、実効税率(企業が所得に対して実質的に負担すべき税率)は10%程度プラスされ、結果として25%〜35%程度になるのが一般的です。
所得が多い個人ほど法人化すると節税できる
仮想通貨の所得に対して税金を支払う際、個人として所得税を支払う場合、住民税と合わせると最高55%の税率がかかります。しかし、法人化して法人税を支払う場合、最高税率は約35%となるため、所得税よりも最大20%程度の税率を引き下げることが可能です。
法人であればどれほど所得が増えても最高税率は約35%までなので、仮想通貨で所得を多く得た人ほど法人化すると節税効果が期待できるのです。
ただし、法人で稼いだ利益を個人のものとして利用するためには通常、役員報酬という形で給料として個人へ移転することになります。この役員報酬にも個人の所得税及び住民税がかかってくるので、法人化することで一概に税率が20%程度減少するわけではありません。
とはいえども、仮想通貨で多くの利益を得た場合は、法人の方が低い税率を期待できることが多いです。
法人税率以外にもある!法人で仮想通貨の取引をする税制上のメリット
所得税は、所得に対して課税されるため、節税するには「収入-必要経費」で求められる、課税所得額をいかに減らせるかがカギとなります。
個人でも法人でもこの計算式は変わりませんが、法人化すると所得を減らすための方法がさらに増えます。その結果、より高い節税効果が期待できます。
● 赤字の繰越控除を受けられる
法人の仮想通貨取引で赤字(損失)が発生した場合、その損失を次期以降最大10年間にわたり繰り越すことが可能です (ただし、平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた損失の繰越は9年間)。
損失の繰越控除とは、損失が出ても翌年度以降の利益と相殺することができる制度で、翌年度以降に発生した利益を抑え、税金の支払い負担を軽減することが可能となります。
一方、個人の場合は原則として損失を繰り越すことはできません。ただし、稀なケースにはなりますが、仮想通貨取引を事業化した個人事業主の場合は、青色申告をすることで3年間の繰越が可能です。
損失の金額にもよりますが、繰越期間が最大10年間と3年間では取り戻せる金額も違ってくる可能性があり、より長期間繰越可能な法人のほうがメリットがあるといえます。
●損益通算ができる所得区分が増える
法人において仮想通貨取引で損失が生じた場合、本来の企業活動により得た利益と相殺することができます。反対に、本来の企業活動の損失を仮想通貨取引の利益と相殺することも可能です。これを「損益通算」といい、同一年分の利益と損失を相殺することで、税金の支払い負担を軽減することができます。
個人においては、仮想通貨取引で得た利益は所得税の「雑所得」に分類されます。雑所得内であれば損益通算は可能ですが、給与所得や不動産所得などほかの所得と損益通算することができません。
●経費の範囲が広がる
個人の場合、必要経費として計上できるのは仮想通貨の取得費や取引手数料など です。
一方、法人では、本来の企業活動に必要な支出はすべて経費として計上できるため、仮想通貨で得た利益と相殺することで、所得を抑えることが可能となります。
法人が費用計上できるものの一例は 以下の通りです。
・給与、賃金 ・家賃、地代 ・保険料、共済掛金 ・接待交際費 ・旅費、交通費 ・広告宣伝費 ・通信費 ・消耗品費 など |
●給与所得控除を利用できる
「給与所得控除」 とは、給与を受け取っている人が給与収入から差し引くことのできる控除のことで、個人事業主や法人でいうところの必要経費にあたるものとされています。給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を算出し、そこに所得税が課税されます。
個人が法人化をして取締役に就任すると、役員報酬として法人から給与を受け取ります。役員報酬でも給与所得控除を利用できるので、個人の所得を抑えることが可能です。
また、一定の条件を満たした場合、支払った役員報酬を経費として算入できるので、法人側もその分所得額を抑えられるといったメリットがあります。
一方、個人事業主の場合は給与所得控除を利用できず、利益から必要経費を差し引いた金額が課税対象になります。ただし、青色申告をすれば「青色申告特別控除」が受けられます。
法人で仮想通貨の取引を始める際のデメリット
仮想通貨取引を法人として行う際にはさまざまなメリットがあることがわかりましたが、一方で気を付けたいデメリットもあります。法人化にかかる費用や会計処理の複雑化、口座開設の審査などについて、あらかじめ確認しておきましょう。
●法人の設立費用がかかる
法人化する際のデメリットとして、設立費用がかかるということが挙げられます。費用の目安は、株式会社の場合で約25万円、合同会社の場合で約10万円になることが多いです。
内訳としては、定款の作成費用や手数料、収入印紙、登録免許税、謄本発行にかかる手数料などがあります。
●会計・税務処理が複雑になる
法人として仮想通貨取引を行う場合、毎年決算書を作成し法人税の申告をしなければなりません。たとえ赤字であっても申告は必要です。
個人の場合は自分で確定申告をする人が多いですが、法人の場合は会計・税務処理が複雑なこともあり税理士に依頼するケースが多く見られます。税理士と顧問契約を結ぶと報酬の支払いが発生するため、その分の費用がかかることもデメリットのひとつといえます。
● 法人の維持活用費用がかかる
上記とも関連しますが、法人化することで毎年の維持活動費用がかかります。法人の場合、仮想通貨を含む1年間の活動で赤字だとしても、法人税として7万円がかかることになります。これは住民税の均等割と言われており、赤字でも法人税が発生するのです。
また、法人登記可能なオフィスの契約など法人の活動のためには様々な費用がかかります。
さらに、万が一法人化がうまくいかなかった場合には法人を清算する必要がありますが、この法人の清算に関しても登記などの手数料がかかることとなります。
●口座開設の審査が厳しい
法人化する際には法人名義の銀行口座を開設することになりますが、法人の事業目的が仮想通貨取引となっている場合、口座開設ができない金融機関が多く見られます。口座を開設できる金融機関が制限されるというデメリットがあります。
また、法人で仮想通貨取引を行うには仮想通貨取引所で法人名義の口座を開設する必要がありますが、取引所の審査が厳しくなる傾向があります。必要書類の種類も多く、口座開設までに時間がかかるケースがあることに留意しておきましょう。
法人化は節税対策のひとつとして有効
仮想通貨取引をするうえで法人化すると、節税効果が期待できることや損失の繰越控除を受けられること、ほかの所得と損益通算が可能なことなどさまざまなメリットがあります。
しかしその一方で、口座開設の審査が難しくなることや会計・税務処理が煩雑化するなどのデメリットもあります。法人化するか検討する際にはメリットやデメリットを十分に考慮し、適切なタイミングで手続きをすることで法人化におけるメリットを十分に享受できるのが望ましいでしょう。