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仮想通貨の利益についての税制と申告分離課税について、税理士法人 GLADZの速水代表税理士に解説してもらいました。

目次

  1. 申告分離課税とは?
  2. 仮想通貨の現状の税制
  3. 仮想通貨の利益が申告分離課税になる可能性
  4. 仮想通貨の利益が申告分離課税になる時期
  5. 仮想通貨の利益が申告分離課税になった場合
  6. 仮想通貨税制の各国比較
  7. 【まとめ】仮想通貨の利益は申告分離課税になるのか

 

1. 申告分離課税とは?

所得税は、個人が得た所得に対して税率をかけて求めます。その所得の計算方法には、2パターン存在します。それぞれ総合課税制度申告分離課税制度(源泉分離課税制度)といいます。

所得税のベースは総合課税で、個人が得た所得全てを合計し、その合計値に対して税率をかけていきます。 例外として、特定の所得のみを抽出して税率をかける申告分離課税があります。

申告分離課税には、さらに例外として、源泉分離課税制度が存在します。  今回は簡単な説明になりますが、所得を受け取るタイミングで、事前に一定の税率で税金が源泉徴収される制度です。   
確定申告の対象となる所得とは完全に分離して除く事が出来ます。預貯金の利子などが代表的な例です。

申告分離課税の概要

この制度が適用される代表的な所得の例は、以下の通りです。

・山林所得   
・土地建物等の譲渡による譲渡所得   
・株式等の譲渡所得等   
・平成28年1月1日以後に支払いを受けるべき特定公社債等の利子等に係る利子所得   
・一定の先物取引による雑所得等 

なぜこれらの所得が分離課税を適用することになったのかというのは、所得ごとに様々な理由によります。担税力(税金を負担する能力)の観点から分離課税にしている所得や、政策的な理由から分離課税にしている所得もあります。

申告分離課税のメリット

分離課税が存在せず、全ての所得に総合課税方式を適用した場合、人によっては高い税率が適用されてしまい、結果的に税金が高くなるケースが存在します。   
例えば、総合課税で最高の45%が適用された状態で「先物取引による雑所得」があると、本来20.315%で計算されるはずが、45%が適用されるため、相当損している事が分かると思います。

申告分離課税のデメリット

一部の所得に対する税率が低くなるというメリットの裏返しですが、「わざわざ分離課税方式で計算しなければならない」という点は若干デメリットになるのではないでしょうか。端的に言うと計算が面倒になり、自分のどの所得が分離課税に当てはまるのかを認識する知識が必要となります。   
また、該当する所得で損失が発生した場合、分離されている事を理由に他の総合課税所得とは損益通算が行えません。例えば同じ譲渡所得でも、分離課税制度が適用される所得とは通算が行えないのです。   
 

2. 仮想通貨の現状の税制

申告分離課税に関してある程度理解して頂けたかと思いますが、仮想通貨取引での利益に関してはどちらの課税方式が適用されるのでしょうか。

仮想通貨取引での利益は「雑所得」に分類されます。しかし、「一定の先物取引による雑所得等」には該当しないため、総合課税が適用されるのが現状の税制となります。

この場合、一定の先物取引とは「FX取引」などが挙げられますが、「仮想通貨のFX」は租税特別措置法(41条の14)の規定で申告分離課税の対象から除かれているのです。   
従って、「仮想通貨取引での利益」および「仮想通貨のFXでの利益」のいずれも総合課税が適用される事になります。  なお、改めて仮想通貨の取引で生じる税金や税率、確定申告のやり方を復習したい方はこちらをご覧ください。

3. 仮想通貨の利益が申告分離課税になる可能性

仮想通貨での利益は総合課税が適用される現状に対し、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)や新経済連盟(新経連)は税制改正要望書を金融庁へ提出し、改善を要求しています。 

 内容としては、「暗号資産取引及び暗号資産デリバティブ取引の利益に対し20%の申告分離課税とする旨」などが記載されています。

申告分離課税が適用されると、暗号資産の所得に課される税率が下がる可能性があるので、実現した場合はメリットに感じられる方もいらっしゃることでしょう。

※参照元URL:一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)JCBA「2023年度税制改正に関する要望書」の公表   
※参照元URL:新経連 暗号資産に関する2023年度税制改正要望を政府宛てに提出

2022年8月31日に金融庁が発表した令和5(2023)年度の税制改正要望には、法人税に関する期末時価評価課税の対象を一部限定した項目のみ記載されており、上記の分離課税に関する論点は含まれていません。

※参照元URL:金融庁 令和5(2023)年度 税制改正要望について

税制の改正は国会を通して行うことから、改正の実現には少なくとも数年はかかりますので、現状、仮想通貨の利益がすぐに申告分離課税になるのは難しいかもしれませんが、今後の議論の高まりに期待しましょう。

なお、上記要望書では、申告分離課税以外にも損失繰越損益通算についても言及していますので、あわせて議論の進捗が楽しみです。   
 

4. 仮想通貨の利益が申告分離課税になる時期


仮想通貨の申告分離課税化を考える際に知っておきたいのが、FX取引が元々総合課税だったという背景です。

先述したように、FX取引による利益には申告分離課税が適用されます。しかし、2012年に税制改正が行われるまでは総合課税として扱われていました。

先述の要望書によると、仮想通貨の利用者口座数は2022年3月には約585万口座となっており、店頭FX取引の税制改正が行われた当時のFX取引口座数を既に超えているとのことです。

口座数だけを見て改正が行われるわけではありませんが、仮想通貨の急速な普及が改正の動きを後押ししてくれることに期待したいものです。  
 

5. 仮想通貨税制の各国比較

今回は日本の税制について詳しく掘り下げてきましたが、暗号資産に対する課税は各国で見解が異なり、現在でも改正が行われているようです。   
海外ではどのような税制が適用されているのでしょうか。   
 

・アメリカ   
アメリカでは、仮想通貨は通貨ではなく「資産」と位置付けられ、「キャピタルゲイン税」が適用されています。債券の値上がりや、株式で譲渡益が発生した際に課税される税金ですね。   
仮想通貨の利益が申告分離課税として定められているということになります。   
1年以上保有した場合に最大20%で課税されます(1年未満の保有は通常の累進課税)。   
しかし、全ての仮想通貨の利益に対する税率が低く設定されている訳ではなく、保有期間や所得額に応じて段階的に税率が異なる仕組みとなります。また、上限はあるものの3年間に限り、損失繰越も認められています。

・フィリピン   
Axie Infinityが盛んなフィリピンでは、仮想通貨収入は「所得税」に区分されており、累進課税(最大35%)と日本と同様の仕組みとなります。ただし、仮想通貨同士の交換時点では利益を認識せず、あくまで法定通貨に交換したときのみ利益を認識するようです。   
日本の税制と比較すると比較的低い税率が設定されているように感じますが、世界的にみるとこれでも不遇と評価される国に挙げられているようです。

・ドイツ   
ドイツでは仮想通貨を1年以上保有している場合、売却及び交換時にキャピタルゲイン税が発生せず、原則非課税とする方針を掲げています。レンディングやステーキングも同様です。

・シンガポール   
海外税制で頻繁に目にするシンガポールでは、キャピタルゲインに関して非課税と認められていますが、条件として「長期的に仮想通貨を保有した場合のみ」に適用されます。   
短期間の取引で得た利益はキャピタルゲインではなく事業所得であり、税金が生じる可能性があります。   
しかし、課税対象となった場合でも最大20%の累進課税ですので、税率は低いと言えるでしょう。   
 

6. 仮想通貨の利益が申告分離課税になった場合

これまで申告分離課税に関する解説と仮想通貨に係る税制について記載しましたが、実際に仮想通貨での利益が申告分離課税として認められた際にどのような違いが生じる可能性があるでしょうか。

税率一律、かつ損益通算が可能になるかも

仮想通貨の利益が分離課税として認められた場合、雑所得になるならFXと同様、譲渡所得なら上場株式と同様の扱いになる可能性が考えられます。どちらも、同じ資産同士の損益通算を可能にしています。かつ、分離課税により、課される税率が一律に設定される可能性も考えられます。この場合、所得が多くなればなるほど、総合課税による累進税率と比して、税額の下げ幅が大きくなることでしょう。

参考:国税庁|No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度

繰越控除が可能になるかも

雑所得の申告分離課税であるFXも、譲渡所得の申告分離課税である上場株式も、3年間にわたる赤字の繰越控除が認められています。暗号資産に対しても認められた場合、赤字を引継ぎ翌年以降の利益と相殺できる可能性がありますね。   
 

7. 【まとめ】仮想通貨の利益は申告分離課税になるのか

現段階では総合課税のままです。ただ、FXが総合課税から申告分離課税に改正されたことや、暗号資産に対する申告分離課税を求める声が多々あることを鑑みると、将来的にはその可能性もあると考えられます。   
暗号資産が申告分離課税に変わると、今後のブロックチェーン産業の更なる発展に寄与されることと思います。法人税に関して進展があった側面は、ポジティブに捉えられる大きな一歩と考えられるでしょう。