仮想通貨取引による所得は現在、総合課税の対象となっています。
そのため、税率が約20%に固定される分離課税として取り扱われているFXや株式取引と比べて、仮想通貨投資は税制上不利であると言われてきました。
しかし、現在、仮想通貨取引の取り扱いをFXや株式取引と同様に分離課税にするための要望が出され、税制改正に向けた取り組みが行われていることをご存知でしょうか。
この記事では現在の仮想通貨の所得に対する税制や申告分離課税の基本知識についてご紹介しつつ、仮想通貨の税制改正が期待される背景や、改正のメリットなどについて解説していきます。
目次
1. 仮想通貨による所得は「総合課税」
現在、仮想通貨による所得は原則「雑所得」に分類され、総合課税の対象となります。
これは、仮想通貨による「雑所得」が会社員の「給与所得」や個人事業主の「事業所得」などと合算され、その金額に応じて所得税の税率が決まるということを意味しています。
一方で株式投資やFX取引は「分離課税」という仕組みが適用され、税制面でより有利な扱いが認められています。
まずはそれぞれについて、基本をおさえておきましょう。
1.1 総合課税の税率
所得税の「総合課税」における税率は、対象となる所得を合算した課税所得額に応じて決まります。累進課税が採用されており、基本的に課税所得が多いほど税率が高くなっていく仕組みになっています。
所得税率
(引用元:国税庁|No.2260所得税の税率)
このように、総合課税における税率は5%〜最大45%にも及ぶため、仮想通貨取引で多額の利益を得た場合には、非常に高額な税金を課せられる可能性があるのです。
なお、現状の仮想通貨取引の利益に対して確定申告が必要となる要件、税金・損益計算の方法などはページ下部の関連記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
1.2 株式やFXなどの所得には「分離課税」が適用
一方で、株式投資やFX取引などで得た利益に対しては「分離課税」が適用されます。
「分離課税」とは、特定の所得のみを抽出して税率をかける方式のことです。
分離課税は、確定申告が必要な「申告分離課税」と、証券会社や銀行などによって源泉徴収されて申告が不要な「源泉分離課税」に分けられます。
通常、株式投資やFX取引などには原則として「申告分離課税」が適用されますが、株式投資の場合は特定口座を選択することで「源泉分離課税」に切り替えることも可能です。
どちらの場合も総合課税とは切り離して税金の計算ができるため、「分離課税」の方が投資家にとって多くのメリットがあるとされているのです。
2. 今後導入が期待される「申告分離課税」とは
仮想通貨取引に「申告分離課税」が適用された場合、投資家にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
主なメリットは次の2点が挙げられます。
2.1 投資家メリット:税率一律、かつ損益通算が可能になるかも
総合課税の場合、仮想通貨取引による雑所得を給与所得や事業所得などと合算することで最大45%もの税金が課せられます。一方、「申告分離課税」になった場合は、他の所得によって仮想通貨に対する税率が影響を受けることはなくなります。
例えば現状の株式投資やFX取引の場合は一律で20.315%の税率が適用されています。仮想通貨もこのように税率が一律になることで、大きな利益を得た場合に、現在適用されている最大45%の総合課税と比較して納税額が減る可能性が考えられます。
また、給与所得等との損益通算が可能になる可能性もあります。
現状では仮想通貨取引による損失は、同じ雑所得内でしか損益通算を行うことができません。
一方で、「申告分離課税」が適用されている株式投資やFX取引では、損失を給与所得などのその他所得から差し引くことが認められており、仮想通貨も同様の取り扱いとなれば大きなメリットといえるでしょう。
2.2 投資家メリット:繰越控除が可能になるかも
現在、仮想通貨取引による所得に対しては繰越控除が認められていません。
繰越控除とは、控除しきれなかった損失を最大3年間にわたって繰り越すことができる制度のことです。
仮想通貨の税制改正にあたっては、この繰越控除を仮想通貨による所得に対しても適用することが要望として出されており、今後の動向が注目されています。
3 . 仮想通貨の利益が申告分離課税になる時期
仮想通貨の申告分離課税化を考える際に知っておきたいのが、FX取引が元々総合課税だったという背景です。
先述したように、FX取引による利益には申告分離課税が適用されます。しかし、2012年に税制改正が行われるまでは総合課税として扱われていました。
後述する業界団体の要望書によると、仮想通貨の利用者口座数は2024年5月には約1,000万口座となっており、店頭FX取引の税制改正が行われた当時のFX取引口座数を既に超えているとのことです。普及度において仮想通貨は既にFXと同程度以上の水準に達しているとみることもできるでしょう。
もちろん、口座数だけを見て改正が行われるわけではありませんが、仮想通貨の急速な普及が改正の動きを後押しすることが期待されています。
4.業界団体による税制改正の要望・働きかけ
近年、仮想通貨の業界団体による税制改正要望の動きが活発化しています。
2024年7月19日には日本ブロックチェーン協会(JBA)が「暗号資産に関する税制改正要望(2025年度)」を政府へ提出しているほか、同年7月30日にはクリプタクトの運営会社、pafinの代表の斎藤 岳が税制検討部会長を務める日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)と日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が共同で「2025年税制改正に関する要望書」を提出しています。
どちらの要望も、「暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税」とする旨や、「損失については翌年以降3年間、暗号資産に係る所得金額から繰越控除ができること」を要望する内容となっています。
こうした要望が採用された場合、仮想通貨にかかる税率が安くなる可能性があるほか、繰越控除による節税の幅も広がるため、メリットと感じる投資家の方が多いことでしょう。
参照元:日本ブロックチェーン協会|暗号資産に関する税制改正要望(2025年度)を政府に提出しました。
参照元:日本暗号資産等取引業界|2025年度税制改正に関する要望書について
参照元:日本暗号資産ビジネス協会|「2025年度税制改正に関する要望書」を政府宛てに提出いたしました
4.1 2025年に向けた動き、スケジュール
通常、政府の税制改正の動きは次のようなスケジュールで行われており、前述した業界団体の動きは、2025年の税制改正に向けたプロセスの一環として行われています。
7月~10月頃
業界団体などからの税制改正要望が提出され、財務省が意見を集約する
12月頃
与党の税制調査会が「税制改正大綱」を公表する。
年明けの通常国会 (1月~3月)
税制改正法案が審議され、可決されれば通常4月から施行される
4月以降順次
国税庁が改正税制に沿った実務面での詳細を通達する
従って、各業界団体から提出された税制改正要望の中身が、どの程度「税制改正大綱」に反映されるかが最初の注目点となります。
もちろん、「税制改正大綱」に反映された内容が必ず法律になるとは限りません。国会での審議や与野党の調整を経て、先送りや見直しが行われるケースも少なくないのです。
なお、今回要望された分離課税化や繰越控除の適用は、以前から業界団体の要望に記載されていましたが、これまで採用されてこなかった経緯があります。それでも、仮想通貨の税制は、年々少しずつ改正されてきています。
最近では国民民主党の玉木雄一郎代表が「仮想通貨を雑所得ではなく分離課税20%にすべき」旨を明言するなど、国会内でも仮想通貨の税制改正に対する機運が高まりつつあります。
仮想通貨の税金を大きく左右する税制改正の動きに、投資家の注目があつまっているのです。
5.まとめ
この記事では、総合課税や申告分離課税の基本知識についてご紹介しつつ、仮想通貨の税制改正が期待される背景や改正のメリット、そして今後のスケジュール感などについて解説してきました。
仮想通貨の税制は、仮想通貨取引による最終利益を左右する非常に重要な要素です。
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