ビットコインETFの登場など、仮想通貨(※1)が既存の金融市場に浸透していくにつれて、これまで仮想通貨に触れてこなかった人々の間でも仮想通貨に関連する投資への関心が高まっています。
一方で、仮想通貨は過去に取引所の破綻や大規模な資金流出事件、ボラティリティの激しい資産への投資に伴うリスクや法的な保護について不安を感じている人も少なくないことでしょう。
そこでこの記事では仮想通貨投資において考えられるリスクに対し補償(※2)があるのか、日本における法整備の状況をケース別にわかりやすく解説していきます。
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※1.正式には「暗号資産」と称されるこれらのデジタル資産は、一般には「仮想通貨」とも呼ばれています。このブログではより一般的な理解を促すために「仮想通貨」という表現を使用しています。
※2.タイトルにある「保証」とは一般的に「間違いがないと約束し、責任を持つこと」という意味をもつ用語です。このブログにおいては、損失を補って償うこと、補填する「損失補填」という趣旨での「補償」について説明するため、本文中では「補償」という表現を使用しています。
仮想通貨投資をする際、損失に対する補償はある?
多くの投資家が懸念することとして、価格変動、または仮想通貨交換業者の破綻により投資資産が無価値になってしまうリスクが挙げられます。
これらの要因により損失を補償してくれる制度などはあるのでしょうか。
ケース別に見ていきましょう
取引所破綻時:第三者機関による補償はない
残念ながら仮想通貨投資においては、利用者保護のための第三者機関がないため、従来の金融商品に見られるような破綻時の補償制度が十分に整備されていません。
日本においては平成29年4月の改正資金決済法より、仮想通貨交換業者の登録制度が施行され、仮想通貨交換業者(いわゆる仮想通貨の「取引所」)における分別管理(顧客の資産を分別して管理すること)等による利用者の保護の仕組みは存在しています。
そのため、原則として財産は保護されることになると考えられます。
ただし、銀行や証券会社が破綻した場合のように第三者機関による補償がないのが現状です。
例えば、銀行が破綻した場合は銀行が預金者にお金を返せない状態になった場合であっても、政府や日銀、民間金融機関等の出資によって設立された第三者機関である「預金保険機構」が元本1,000万円までと破綻日までの利息(利息の付く普通預金や定期預金。種類によって異なります。)までの預金を返してくれます。
また、証券会社が破綻した場合は、金融商品取引法上における分別管理によって顧客の資産は保護されていますが、万一、証券会社が分別管理義務に違反していたとしても第三者機関である「日本投資者保護基金」によって、最大1,000万円までの資産を補償してもらえるようになっています。
このように、仕組みは整備されてきているものの、仮想通貨の法整備の歴史は従来の金融商品と比べてまだ浅く、第三者機関による補償がないという点には留意が必要です。
なお、海外の取引所については無登録業者であり、規制をクリアしていないため、同じ仕組みが存在していない可能性があることには注意が必要です。日本で仮想通貨取引所として登録する機関は下記の規制基準をクリアする必要があります。
暗号資産交換業者の規制概要
特に、受託金銭の保全は投資家保護の観点で非常に重要な意味を持ちます。
取引所が預かり資産を分別管理して信託銀行などに信託することで、万が一取引所の経営状態が悪化した場合でも顧客資産を保全し、倒産した際に預けている資産が返ってくる可能性が高まるのです。
それでも、想定外の事象(社内の不正やハッキング被害等)で顧客資産が失われる場合まではカバーしきれません。
仮想通貨取引で詐欺にあってしまった場合、その被害額を損失計上できるかどうかは所得の種類に応じて変わってきます。
基本的に、個人の投資として雑所得で認識している場合は、貸倒損失として損失計上が可能です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
仮想通貨の暴落:完全に自己責任
仮想通貨投資のリスクは、取引所などの破綻だけではありません。
仮想通貨は常に価格が変動しており、大きな利益を得られる可能性を秘めている反面、価格が下落して仮想通貨の価値がゼロになってしまう可能性もあります。
もちろん、それ自体は株式投資でもある程度は同じと言えるかもしれません。
しかし、株式であれば仮に発行会社が破産した場合にも清算手続きが法律で決まっており、株主の優先順位は低いものの、残った会社の資産の一部が株主に戻ってくる(残余財産の分配)可能性もあります。(ただし、実態としては分配として財産を得られる可能性は低いと考えられます)
また、取締役等に法令違反や善管注意義務などがあれば会社法上の責任追及として損害賠償が得られる可能性も考えられるでしょう。
しかし仮想通貨の場合はあくまで法律上は決済手段の一種であるため、こうした残余財産の分配の概念がありません。さらに、そもそも仮想通貨そのものに特定の発行者が存在しない場合も少なくなく、責任を追及する先がないケースが想定されます。
それゆえ、仮想通貨の価格の変動に対する責任追及や残余財産の分配等、損害を回復する手段がないため、仮想通貨への投資に対する価格変動のリスクは完全に自己責任と認識しておくほうがいいでしょう。
仮想通貨投資の投資家保護を推進する法律
世界的な仮想通貨市場の成熟とともに、日本政府は投資家保護と市場の安全性向上を目指して法整備を進めてきました。
ここでは投資家保護に関するこれまでの主な法整備について見ていきましょう。
2017年の法整備(取引所登録制の導入など)
日本で仮想通貨の法整備が始まるきっかけの一つとなったのが、2014年に発生した仮想通貨取引所MTGOXでの巨額流出事件(いわゆるマウントゴックス事件)です。
当時はまだ日本社会において仮想通貨取引の知名度は高くありませんでしたが、当時の価格で約470億円相当ものビットコイン等が被害を受けたことで大きく報道され、法整備の必要性が社会的に認識されるようになりました。
その後、2017年4月施行の資金決済法改正によって、仮想通貨取引所に金融庁への登録制が導入されています。
取引所は投資家が口座開設する際に本人確認等の実施が義務付けられたほか、最低資本金や顧客資産の分別管理などが定められました。
投資家が安心して取引所を利用できるように、取引所を運営する事業者に一定以上の水準を求めるようになったのです。
また、この際に法令上初めて仮想通貨の定義が行われたことで、仮想通貨の位置付けが明確になっています。
2020年の法整備(投資家保護の拡充など)
一応の法的な位置付けが整備された仮想通貨はその後、世界的なブームも相まって市場規模が急激に拡大していきました。
仮想通貨が投機対象化し、ICOなどの巨額な取引も行われるようになると、投資家保護の確保のために更なるルールの明確化が求められるようになります。
そこで2020年5月施行の資金決済法・金融商品取引法等の改正によって、新たなルールが設けられました。
これによって仮想通貨取引所は顧客の暗号資産の大半を信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することが義務付けられたほか、過剰な表現による広告・勧誘が禁止されるなどの規制が行われています。
また、暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を規制対象に加えたほか、仮想通貨FX取引におけるレバレッジ倍率を規制するなど、過度な投機を抑える対応もとられました。なお、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」へ変更する対応もこの時に行われています。
その後、2023年には電子決済手段としてのステーブルコインの保護の規制の導入の改正が行われており、日本におけるステーブルコインの法的位置づけや、利用者保護の基準などを定めた法整備が行われました。直接的な利用者保護のための法整備ではないものの、電子決済手段の保有に関する保護の制度の拡充によって、安心して仮想通貨への投資ができるような制度設計になったともとらえられます。
このように、仮想通貨に関する投資家保護の取り組みは着々と前進しており、これからも整備が続いていくことが見込まれています。
なお、ステーブルコインの詳細についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、興味のある方は併せてご覧ください。
まとめ
この記事では、国内の登録暗号資産交換業者における利用者保護のための仕組みは整備されて来ているものの、第三者機関による補償はないことや仮想通貨への投資による価格変動リスク等は自己責任であることを解説しました。
仮想通貨へ投資するにあたって加えて理解しておきたいポイントとして、株式や投資信託の場合は証券会社等の金融機関が税金の処理を行ってくれる仕組みが存在しますが、仮想通貨投資の場合は自分で行わなければならないという点です。
それゆえ、自分で1年間に行った全ての取引による損益を正確に把握し、一定以上の利益がある場合は確定申告をする必要があるのです。
これらの計算を手作業で行うのは時間と手間がかかるうえ、計算量が多いため正確さの面でも心配が残ります。
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なお、仮想通貨の節税方法についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、確認したい方は併せてご覧ください。
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※監修については、法的な観点から誤りがないかという観点から確認を受けております。