仮想通貨の移動平均法と総平均法の違いや選び方を解説.jpg

仮想通貨取引で一定の金額(※)を超える利益を得た場合、1年間で発生した所得を確定申告で届け出る必要があります。
その際に使用される計算方法が「総平均法」と「移動平均法」であり、納税者はどちらか一方を選択しなければなりません。

それぞれの計算方法はどのようなもので、どちらを選択するのが良いのでしょうか。

この記事では、「総平均法」と「移動平均法」についてそれぞれのメリット・デメリットを解説しつつ、どちらを選択する方が良いかケーススタディに沿ってご紹介していきます。

(※)会社員の方は20万円を超える場合、被扶養者(専業主婦や学生など)に該当する場合は、48万円を超える場合。ただしその他の理由で確定申告をする場合は申告の必要があります。


クリプタクトでは、仮想通貨の売却取引時に生じた利益(または損失)を「実現損益」と表現し、その計算方法については「実現損益=(売却価格ー平均取得単価)×売却枚数」として紹介しています。ただし結果は同じになります。

 「総平均法」と「移動平均法」のメリット・デメリット

「総平均法」と「移動平均法」は、どちらも購入した仮想通貨の平均単価を計算するための方法です。

【仮想通貨の損益計算】

 譲渡価格(売った価格) - 取得原価(買った価格) = 所得金額(損益)

※「総平均法」「移動平均法」はこの譲渡原価を求めるための計算方法

「総平均法」は1年間に購入した価格全てを単純平均する方法であるのに対し、「移動平均法」は購入する都度、取得原価を計算し直していく方法です。 
それぞれ計算を行うタイミングが異なるため、どちらを選択するかにより単年度の所得金額が変わることがありますが、長期的に見ると将来発生する所得金額は同じとなります。 
それでは、自分がどちらの手法を採用するかを検討するうえで、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて見ていきましょう。

●総平均法

総平均法は、1年間の取引全てを集めて平均取得価額を計算する方法です。

【メリット】        
総平均法は、計算が比較的簡単というメリットがあります。一定期間内の仮想通貨の購入代金を購入数量で除して求めるだけで平均単価が計算できます。

また、一定期間内の購入価格が平均単価にすべて反映されることから、購入時の価格が一時的に変動しても平均単価の計算においては影響を受けにくいというメリットもあります 。

【デメリット】        
総平均法は、1年間の取引が終わってからでないと平均単価がわからないので、期中において「今どのくらいの所得があるのか」が把握しづらいですそのため、納税資金の準備がしづらいという欠点があります。

また、実際の取引における利益と最終的な利益がかけ離れてしまう可能性があることも難点です。 
売買のタイミングによっては、実際の取引で発生した利益が少額だとしても、総平均法で計算したことにより利益が大きくなり、納税額が高額になってしまう可能性もあるのです。

●移動平均法         
移動平均法は、取得が発生する都度、平均取得価額を計算し直す方法です。

【メリット】        
移動平均法は、期中のどの時点においても平均単価が明確になっているため、経済的な実態により即した損益を把握することが可能です。 
損益状況を高精度で把握できるので、価格変動の影響を調整しやすいことや、納税資金を準備しやすいというメリットがあります。

【デメリット】        
仮想通貨を購入するたびに平均単価の計算が必要になるため、その都度手間がかかるというデメリットがあります。 
特に、取引回数が多い場合や複数の仮想通貨で取引している場合などは大きな負担がかかるでしょう。

「総平均法」と「移動平均法」の計算例

「総平均法」と「移動平均法」の特徴やメリット・デメリットが分かったところで、より具体的なイメージをしやすいようにサンプルケースに沿った計算例をご紹介します。 
なお、ここでは分かりやすさのために小さな金額でサンプルケースを例示していますが、実際のビットコイン取引ではより大きな金額が動くことになります。

ケース① 計算方法によって結果が変わらないシンプルケース

まずは、「総平均法」と「移動平均法」で単年度の計算結果が変わらない、シンプルなケースから見ていきましょう。

【取引内容】

2023年、ビットコインの時価が250円の時に2BTCを購入した。 
その後、時価が300円になったタイミングで1BTCを売却した。 
この年に行った取引はこれだけである。 


この場合、取得原価の計算は次の通りです。

総平均法総購入金額500円 ÷ 総購入数量2BTC
= 250円 
移動平均法購入金額500円 ÷ 購入数量2BTC
= 250円 


取引が非常にシンプルであるため、どちらの計算方法でも取得原価は同じとなります。 
取得原価に基づいた損益計算は次の通りです。

【損益計算】

譲渡価格300円 - 取得原価250円 = 利益(所得)50円 

同じ取得原価に基づいた損益計算のため、「総平均法」と「移動平均法」のどちらも50円の利益(所得)という結果になりました。

申告年度総平均法移動平均法
2023年所得50円所得50円

このように年内に1度しか購入していないシンプルなケースにおいては、「総平均法」と「移動平均法」のどちらを用いても取得原価に変わりはなく、年間の損益計算に差がでないことがお分かりいただけたと思います。

ケース②計算方法によって結果が変わるケース

ケース①では、単年度で損益に差がでない事例をご紹介しました。 
それでは、どのような場合に「総平均法」と「移動平均法」の計算結果に差がでてくるのでしょうか。ケースを少し複雑にしてみましょう。

【取引内容】

2023年、ビットコインの時価が250円の時に2BTCを購入した。 
その後、時価が400円になったタイミングで1BTCを売却した。 
さらに年末、ビットコインの時価が550円の時に1BTCを追加購入した。 


このケースでは、同一年内にビットコインの購入取引を2回(複数回)行っており、その間に売却取引も行われている点が先程と異なります。 
この場合、取得原価の計算は次の通りです。

総平均法

総購入金額1,050円* ÷ 総購入数量3BTC = 350円 
*250円 × 2BTC と 550円 × 1BTC の合計

移動平均法

  時価売買数量保有残高平均取得原価 
購入250円+2BTC2BTC250円 
売却400円▲1BTC1BTC250円
購入550円+1BTC2BTC400円

【売却した1BTCの平均取得原価】

 購入金額(250円 × 2BTC) ÷ 2BTC = 250円

【年末に残った2BTCの平均取得原価】

 購入金額(250円 + 550円) ÷ 2BTC = 400円 

「総平均法」は1年間の購入取引全てを集めて平均取得価額を計算する方法ですので、時価250円での2BTCの購入と時価550円での1BTCの購入を平均して、取得原価は350円となります。

売却時までの平均取得価額ではなく、年間全ての購入の平均を求める必要がある点に注意しましょう。

一方で「移動平均法」は取得取引が発生する都度、平均取得価額を計算し直していく方法ですので、売却取引の取得原価には、その時点ではまだ行われていない年末の購入取引は加味されません。そのため、売却取引時の取得原価は250円となり、年末に残った保有残高の取得原価は400円となりました。 
なお、それぞれの計算方法における損益計算は次の通りとなります。

【総平均法による損益計算】

譲渡価格400円 - 取得原価350円 = 利益(所得)50円 

【移動平均法による損益計算】

譲渡価格400円 - 取得原価250円 = 利益(所得)150円

(損益計算の取得原価は売却時のものを用いる)

このように、同じ取引を行っているにも関わらず、「総平均法」と「移動平均法」では税務上の所得認識に大きな開きが生じることがあるのです。

 総平均法移動平均法
所得所得50円所得150円

所得が大きいほど税金も多く支払う必要がありますので、このケースを2023年の単年度で見ると、「総平均法」の方が税金がお得だったと見ることができるでしょう。

ケース③ 複数年をまたぐと結果が同じになるケース

ケース②では、同じ取引であるにも関わらず、単年度における税務上の所得が大きく異なる結果となりました。 
それでは複数の年度を通してみると、どうなるのでしょうか。 
先程のケースの続きを例に考えてみましょう。

【取引内容】

2023年 
時価250円の時に2BTCを購入 
時価400円の時に1BTCを売却 
時価550円の時に1BTCを追加購入 
(ここまではケース②と同じ)

2024年、時価が600円で2BTCを追加購入し、 
その後時価が1000円になったタイミングで保有する4BTCを全て売却した。 

このケースの場合2023年の取引に続いて、2024年の取引を行っています。

このように年を越えて保有している仮想通貨の取得原価を計算する際には、前年の取得原価を引き継いで計算することになります。 
ケース②で算出した保有残高に対する取得原価は以下の通りでした。

 総平均法移動平均法
2024年初に保有する 
2BTCの平均取得原価
350円400円 

上記を踏まえて、2024年の損益計算は次の通りです。

総平均法

2023年から保有している2BTC(平均取得原価350円)を含めて計算する。

総購入金額1,900円* ÷ 総購入数量4BTC = 475円 
*350円 × 2BTC と 600円 × 2BTC の合計 

移動平均法

2023年から保有している2BTC(平均取得原価400円)を含めて計算する。 
 

  時価売買数量保有残高平均取得原価
前年繰越2BTC400円
購入600円+2BTC4BTC500円
売却1000円▲4BTC0BTC

【売却した4BTCの平均取得原価】

購入金額(400円 × 2BTC + 600円 × 2BTC) ÷ 4BTC = 500円 

従って、それぞれの計算方法における損益計算は次の通りとなります。

【総平均法による損益計算】

譲渡価格4,000円 - 取得原価1,900円 = 利益(所得)2,100円 

【移動平均法による損益計算】

譲渡価格4,000円 - 取得原価2,000円 = 利益(所得)2,000円 

2024年に行った取引は同じですが、また「総平均法」と「移動平均法」によって税務上の所得認識に差が生じています。 
しかし2023年と2024年を通算して見ると、所得金額は以下の通り一致しています。

申告年度総平均法移動平均法
2023年所得50円所得150円
2024年所得2,100円所得2,000円
合計2,150円2,150円

このように、「総平均法」と「移動平均法」は単年度での所得認識に差が生じて納税額に影響することがある一方で、全てを売却し終えた後にトータルで見ると発生する所得は同じであることがお分かりいただけることでしょう。

「総平均法」と「移動平均法」どちらを選べば良いか

それでは、「総平均法」と「移動平均法」のどちらを選ぶべきでしょうか。

結論から述べると、「総平均法」と「移動平均法」のどちらを選んだ方が有利であると一概に言い切ることはできません。あくまでも平均取得原価を計算するタイミングの違いであり、単年度で所得に差が生じることはあっても、長期的な所得は同一となるためです。

従って、どちらを選択すべきかは、自身が何を重視するのかで決めるのが良いでしょう。

例えば、計算の手軽さを重視するのであれば「総平均法」があっているかもしません。一方であらかじめ年間損益の着地点を予測しながら、税金面で最適な取引を目指したいと考えているのであれば、「移動平均法」を採用することで常に最新の損益や取得原価を把握することができます。

どの選択をするにしても、自分なりの判断基準を設けて決めることが大切です。

「総平均法」と「移動平均法」選択時の注意点

取得原価の計算方法は届出によって変更することができますが、届出をしなかった場合は自動的に「総平均法」を選択したものと見なされます。(法人の場合は「移動平均法」) 
計算方法を選択する届出は、仮想通貨の取得日の属する年分の確定申告期限までに行う必要がありますので、変更したい場合は忘れないようにしましょう。 
なお、評価方法は仮想通貨の銘柄ごとに選択することが可能です。一度選択した評価方法は、原則として3年間は変更することができませんので、注意しましょう。

評価方法を変更したい場合は、「所得税の(有価証券・暗号資産)の評価方法の変更承認申請書」を提出します。

「移動平均法」を選択する人は、その年の3月15日までの届出をお忘れなく!         
 

「総平均法」と「移動平均法」で効率的に税金計算をする方法

「総平均法」と「移動平均法」のどちらを選択したとしても、1年間に行った全ての取引に対して損益計算をしなければならない点は同じです。比較的簡単な「総平均法」を選択した場合でもあっても、大量に取引を行った際には手作業での計算は困難になることでしょう。

そのような場合、専用の計算ツールを活用する方法がおすすめです。

仮想通貨専門の損益計算ツール「クリプタクト」であれば、「総平均法」と「移動平均法」の両方に対応しているため、手間をかけずに自動で損益計算を行うことができます。

特に「移動平均法」を選択した場合は、デメリットとしてご紹介した計算の手間を意識する必要もなく、正確な実現損益や含み損益をリアルタイムで把握することが可能です。つまり、大きな実現利益と含み損を抱えている状況(若しくはその逆)をいち早く察知し、相殺取引を行うことで将来の納税額を賢く抑えることにも繋げられるのです。


「クリプタクト」では基本機能を無料でご利用いただけるプランも用意されています。仮想通貨取引の税金計算を賢く効率的に行いたいとお考えの方は、ぜひこの機会にお試しください。 
   
※クリプタクトでは、個人で仮想通貨の取引をされている方に対してデフォルトで総平均法を採用しています。