2025年度税制改正に関する要望書を解説.webp

暗号資産(以下、仮想通貨)の税金は所得税、住民税10%と合わせると最大55%になるため、仮想通貨取引による所得に対する税金は高いという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

毎年クリプタクトの運営会社、pafinの代表の斎藤 岳が税制検討部会長を務める「一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)」と認定自主規制団体である「一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)」は、こうした持続的な発展を期することを目的に、共同で税制改正要望書を政府および関係省庁へ提出しています。

昨年の税制改正においては、保有している自社発行トークンの含み益は課税対象外となり、令和6年度においては一定の譲渡制限を付したトークンの含み益が時価評価課税の対象外となるなど、2年連続で法人に対してメリットのある内容が施行されました。しかし、個人に対する大きな変更はありませんでした。

一方、毎年の税制改正要望書では、個人取引者に対する改革も要望しています。   
この記事では、税制改正要望書から個人で仮想通貨取引を行う人が知っておきたい重要な3つのポイントに絞って紹介します。

目次

  1. ポイント1.総合課税から分離課税への変更
  2. ポイント2.仮想通貨の損失繰越制度の導入
  3. ポイント3.暗号資産同士の交換
  4. まとめ

ポイント1. 総合課税から分離課税への変更

現在、仮想通貨の所得は総合課税(雑所得)として扱われ、所得に応じた累進課税が適用されています。 さらに、住民税は所得に対して一律10%が適用されます。


所得税率の早見表   
 

所得税の税率と控除額早見表.webp

要望書ではこれを一律(20.315%)の税率である「分離課税」に変更することが求められています。

分離課税により、他の所得と分けて計算されるため、税負担が軽減される可能性があります。なお、分離課税の「20.315%」には、所得税および復興特別所得税15.315%と地方税5%が含まれています。

例:

会社員の方で年収が433万円、仮想通貨の所得が100万円の場合

※ここではシンプルな解説とするために給与控除等、その他控除を加味していませていません。   
※国税庁「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均年収は433万円のため年収を433万円として計算

【速算表を参考に計算】

ケース1. 総合課税の場合

所得税   
533万×20%-427,500= 638,500

住民税   
533万×10%= 533,000

合計   
638,500 + 533,000 = 1,171,500

ケース2. 仮想通貨の所得が分離課税の場合

(433万×20%-427,500) + (100万 × 20.315%) = 641,650円

これら2つのケースを比べてみると、1,171,500 - 641,650 = 529,850円、分離課税のほうが支払う税金が小さくなることがわかります。

ポイント

• 分離課税になると税率が一定(20.315%)になり、所得が増えても高率の課税を避けられる。   
つまり、日本の平均年収並みの所得に加えて、一定の仮想通貨の利益がある場合、税負担が軽くなる可能性がある。

2. 仮想通貨の損失繰越制度の導入

株式やFX取引などでは、損失を翌年以降に繰り越せる「損失繰越制度」が導入されていますが、仮想通貨取引にはまだ適用されていません。要望書では、仮想通貨取引にも損失の繰越が可能になるように求めています。

ポイント

• 損失を翌年以降に繰り越すことができれば、将来の利益と相殺することができ、結果的に税負担が軽減される。   
• 仮想通貨市場のボラティリティが高いことを考えると、トレーダーにとっては有利な制度と言える。

3. 暗号資産同士の交換

現在の税制では、暗号資産同士の交換も一つの「譲渡」として扱われ、交換のたびに時価評価による所得計算が必要です。このため、実際に法定通貨で利益を確定していないにもかかわらず、交換時点の時価で利益が発生したものとみなされ、課税対象となります。

これにより、税計算が複雑になっているという課題があります。ただし、交換を課税イベントとしない税制改正があったとしても、おそらく法定通貨への交換時には損益を計算する必要があるでしょう。そのためには暗号資産同士の交換においても、簿価計算を行う必要が出てくることから、税計算の複雑さは今と変わらない可能性が高いです。また交換を非課税にする制度の中身によっては、さらに複雑化する可能性もあります。

ポイント

• 暗号資産同士の交換を非課税とする、もしくは特定の条件下で課税を繰り延べる制度に変更になれば、個人投資家が暗号資産の多様な運用を試みやすくなり、税務面での不安が軽減される。   
• 資金の実現利益がない状態で税金を支払わなければならないリスクが減るため、資産運用がより効率的に行える可能性が高まる。   
非課税、あるいは課税繰り延べについて、税計算の複雑さは今と変わらない可能性が高く、制度設計によってはさらに複雑化する可能性がある。

まとめ

以上のポイントから、仮想通貨の税制改正が進むことで、個人の仮想通貨取引者にとってより負担が軽く、分かりやすい税制が期待されます。

今回の要望書で示された変更点が採用されれば、特に個人トレーダーにとって大きなメリットとなる可能性があります。   
仮想通貨取引に関連する税制が発展していくことで、より多くの個人が安心して取引を行える環境が整っていくことを期待しましょう。

株式会社pafinは仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」を通じて仮想通貨取引を行う投資家の資産管理、確定申告準備をサポートするとともに、展示会での税制改正に関するセミナーの実施など、業界全体の整備にも取り組むことで投資家の皆様のよりよい環境づくりに取り組んでいます。

今後も暗号資産の税制改正や具体的な税金の計算方法など、最新情報が知りたい方は公式Xのフォロー、または無料メルマガの登録をお願いいたします。

参考文献  
2025年度 税制改正要望書   
2025年度 税制改正に関する要望書