どんな人でも、さまざまな理由で「無職」になることはあり得ます。
定期的な収入がなく、家族に扶養されている場合でも、年間48万円以上の収入があると確定申告が必要になる可能性があり、正しく申告と納税を行わないと脱税のリスクが生じます。
この記事では、無職のさまざまなパターンごとに、いくら稼いだら確定申告が必要になるのか、またその計算方法を解説し、さらに収入別の税額シミュレーションも紹介します。
目次 |
なお、この記事における「無職」については、次のように定義して解説します。
● 労働対価として支払われる収入がない
● 個人事業主として開業していない
● 年金・利息収入・家賃収入などがあっても就業していなければ無職
無職の方の仮想通貨の税金【扶養されていない・仮想通貨投資のみの収入の場合】
まずはじめに、シンプルなパターンから見て行きましょう。
サンプルケース①
仮想通貨取引による収入:あり その他の収入(給料等):なし 扶養:されていない (基礎控除以外の控除は考慮しない) |
このケースは、仮想通貨取引による収入のみで生活をまかなっていて、親や配偶者などから扶養されていない人が該当します。
独身、一人暮らしの仮想通貨デイトレーダーと言えばイメージしやすいかもしれません。
税率・確定申告の要否
年間の所得金額が48万円を超える場合は、確定申告が必要になる可能性があります。
確定申告とは、年間の所得額から各種控除を差し引いた残りがプラスになる人(税金を払う必要がある人)が、その税額と計算根拠を申告するための手続きです。
所得額から差し引くことができる控除にはさまざまな種類がありますが、多くの人が適用できる基本的な控除として「基礎控除」があります。
基礎控除とは
年間所得額に応じて、税額を計算する際の所得から一定額を差し引くことができる制度のこと。
例えば年間所得額が2,400万円以下の人は所得から48万円を控除することができます。
基礎控除の金額
従って 、年間の所得金額が48万円以内であれば基礎控除の範囲内であるため確定申告は不要ですが、48万円を超える場合は他の控除なども含めて計算しながら要否を確認する必要があるのです。
それでは、適用される税率についてはどうでしょうか。
仮想通貨取引による利益は通常、「雑所得」と呼ばれる所得に分類されます。
「雑所得」は「総合課税」の対象となっており、所得額が大きいほど税率が高くなる「累進課税」と呼ばれる仕組みが採用されています。
所得金額ごとの税率は次の通りです。
課税所得金額
なお、課税所得の区分ごとに異なる税率を適用すると複雑になるため、累進課税制度では税率と控除額が定められています。
例えば、所得が300万円の場合は、基礎控除を引いた225万円の課税所得が該当する区分として、税率10%、控除額97,500円が適用されることになります。
また、上記の所得税とは別に住民税も支払わなければなりません。住民税は仮想通貨の利益に対して概ね10%の利益となっています。
税額シミュレーション
それでは、無職(扶養なし)の方が仮想通貨投資で利益を得た場合に支払うべき税額について、シミュレーションしていきましょう。
所得税の計算方法は次の通りです。
所得税額 = 課税所得金額 × 税率 - 控除額 |
年収別の税額シミュレーション結果は次の通りになります。
【シミュレーション①-1:仮想通貨による収入100万円の場合】
仮想通貨による収入(雑所得) | 100万円 |
基礎控除 | ▲48万円 |
課税所得額 | 52万円 |
所得税率 | 5% |
所得税額 | 26,000円 |
所得100万円から基礎控除48万円を差し引いて残った52万円が課税所得となります。
この場合の所得税率は5%であるため、所得税額は26,000円になります。
【シミュレーション①-2:仮想通貨による収入500万円の場合】
仮想通貨による収入(雑所得) | 500万円 |
基礎控除 | ▲48万円 |
課税所得額 | 452万円 |
所得税率 | 20%(控除額427,500円) |
所得税額 | 476,500円 |
所得500万円から基礎控除48万円を差し引いて残った452万円が課税所得となります。
この場合の所得税率は20%であり、控除額427,500円を税額から差し引けます。
452万円 × 20% - 427,500円 = 476,500円 が所得税額となります。
このように、仮想通貨投資の収入のみの場合は、収入額が48万円を超えると税金が発生するようになり、金額が増えるほど負担(税率)が高くなることがわかります。
無職の方の仮想通貨の税金【扶養されている場合】
続いて、本人が無職かつ扶養に入っているパターンです。
サンプルケース②
仮想通貨取引による収入:あり その他の収入(給料等):なし 扶養:されている (基礎控除以外の控除は考慮しない) |
このケースは、親や配偶者などから扶養されていて、本人は就職していないものの仮想通貨取引で収入がある人が該当します。
専業主婦(主夫)をしながら仮想通貨取引をしている人をイメージすると近いかもしれません。
さっそく税金について見ていきましょう。
税率・確定申告の要否
基本的に扶養に入っている人であれば、確定申告を行う必要はありません。
ただし一定以上の収入を得た場合は扶養から外れるため、確定申告が必要になります。
それでは、どれほどの稼ぎがあれば扶養から外れることになるのでしょうか。
それは年間の所得合計額が48万円を超えた時です。
仮想通貨取引で年間48万円以上の利益を得た場合、基礎控除を差し引いても課税所得額がプラスになるため、扶養から外れて確定申告が必要になるのです。
一般的に扶養を外れる基準として「103万円の壁」という言葉をよく耳にするかもしれませんが、これはパートやアルバイトなどで給与所得を得ている場合の話です。
仮想通貨取引による利益は「給与所得」ではなく「雑所得」ですので、金額の基準が異なるという点に注意しましょう。
なお、適用される税率についてはサンプルケース①と同様です。
税額シミュレーション
それでは、無職(扶養あり)の方が仮想通貨投資で利益を得た場合に支払うべき税額について、シミュレーションしていきましょう。
年収別の税額シミュレーション結果は次の通りになります。
【シミュレーション②-1:仮想通貨による収入40万円の場合】
仮想通貨による収入(雑所得) | 40万円 |
基礎控除 | ▲48万円 |
課税所得額 | 0円 |
所得税率 | なし |
所得税額 | 0円 (扶養者に扶養控除・配偶者控除等あり) |
この場合、所得が基礎控除の範囲内であるため課税所得は0円となり、税金は発生しません。
サンプルケース①との違いは、扶養者(親や配偶者など)に扶養控除や配偶者控除等が適用されている点です。
扶養とは自分の稼ぎで生活できない家族や親族に対して経済的援助を行うことですので、扶養をしている人(扶養者)に対しては税務上の優遇措置として「扶養控除」「配偶者控除」等が認められています。
つまり、扶養者が支払う税金が少し安くなっているのです。
【シミュレーション②-2:仮想通貨による収入100万円の場合】
仮想通貨による収入(雑所得) | 100万円 |
基礎控除 | ▲48万円 |
課税所得額 | 52万円 |
所得税率 | 5% |
所得税額 | 26,000円 (扶養から外れる) |
所得100万円から基礎控除48万円を差し引いてのこった52万円が課税所得となります。
この場合の所得税率は5%であるため、所得税額は26,000円になります。
こちらもサンプルケース①-1のシミュレーションと同じようですが、本人に一定以上の収入が発生したことで、扶養から外れている点に注意が必要です。
扶養者(親や配偶者など)が「扶養控除」「配偶者控除」を受けられなくなるため、その人の税金は増えることになります。
無職の方の仮想通貨の税金【同年の途中まで会社員としての収入があった場合】
最後に、会社員が退職して無職になったパターンについてご紹介します。
サンプルケース③
仮想通貨取引による収入:あり その他の収入(給料等):あり(同年の途中まで給料があった) 扶養:なし (基礎控除・給与所得控除以外の控除は考慮しない。年金の受給年齢には達していないものとする。) |
このケースは、会社員として働いていたが退職して現在は仮想通貨取引による収入のみを得ているものの、同年の途中までは給料を得ていたため「給与所得」と「雑所得」が並存する人が該当します。
仮想通貨投資で生活していくことを決意して脱サラした人などのイメージです。
さっそく税金について見ていきましょう。
税率・確定申告の要否
通常、会社員や公務員などの給与所得者は、勤務先で行う「年末調整」によって税金の申告と納税が完結します。
しかし、年の途中で退職した場合は基本的に年末調整の対象外となるため、自分で確定申告が必要になる可能性があります。
それでは、どのようなケースで確定申告が必要になるのでしょうか。
大前提として、年間の所得額から各種控除を差し引いた残りがプラスになる人(税金を払う必要がある人)は、確定申告を行う必要があります。
この際、給与所得からは給与所得控除を差し引ける点に留意してください。
給与所得控除とは
年間の給与収入額に応じて、税額を計算する際の所得から一定額を差し引くことができる制度のこと。
例えば給与収入が1,625,000円までの場合、55万円を所得から差し引くことができます。
給与所得控除
もちろん、基礎控除(48万円)も差し引くことができますので、給与収入と仮想通貨取引による利益を合わせて103万円以上の収入がある場合は、確定申告が必要になります。
また、そもそも給与から所得税の源泉徴収をうけていた場合は、確定申告を行うことで税金の還付を受けられる可能性もあります。
詳しくは税務署の相談窓口や税理士などに確認するとよいでしょう。
なお、「給与所得」は「雑所得」と同様に「総合課税」の対象となっているため、適用される税率についてはサンプルケース①と同じです。
税額シミュレーション
それでは、同年の途中まで会社員としての収入があった方が仮想通貨投資で利益を得た場合に支払うべき税額について、シミュレーションしていきましょう。
年収別の税額シミュレーション結果は次の通りです。
【シミュレーション③:仮想通貨による収入200万円、給与収入200万円の場合】
給与収入 | 200万円 |
給与所得控除 | ▲55万円 |
仮想通貨による収入(雑所得) | 200万円 |
基礎控除 | ▲48万円 |
課税所得額 | 297万円 |
所得税率 | 10% (控除額97,500円) |
所得税額 | 199,500円 |
給与収入200万円から給与所得控除55万円を差し引いた給与所得145万円と雑所得200万円を合算し、そこから基礎控除48万円を差し引くことで、課税所得額297万円が求められます。
従って、297万円 × 10% - 97,500円 = 199,500円が所得税額となります。
既に給与収入から源泉所得税を引かれている場合は、不足額を納税することになるでしょう。
今回のシミュレーションでは考え方をシンプルにご紹介するため、基礎控除と給与所得控除以外の控除については考慮していません。実際は社会保険料控除や医療保険料控除なども利用できるため、課税所得額は上の表よりも少なくなる可能性があります。
また、収入に対しては「所得税」の他にも「住民税」が課税されます。
住民税の計算方法は居住している自治体によって詳細が異なりますが、課税所得額に対して概ね約10%の水準になることが一般的です。
このように、たとえ無職の状態であったとしても、仮想通貨投資などの収入に対しては税金がかかることを念頭においておく必要があります。
いざ納税の時期になってから資金が足りないという事態にならないように、計画的に仮想通貨投資を行うようにしましょう。
まとめ
この記事では、無職の方が仮想通貨取引で利益を得た場合の税金について、サンプルケースを元に解説してきました。
確定申告を行うには、仮想通貨取引による「雑所得」を自分で把握する必要があります。
具体的には、1年間に行った取引履歴に対してそれぞれの取引における損益計算を行います。計算は日本円換算で行う必要があるため、各時点におけるレートの情報も調べなければなりません。
また、こうした損益計算は銘柄ごとに計算するため、取引銘柄や取引回数が多いほど、大変な量の計算をすることになってしまうのです.
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