保有している仮想通貨を活用し、継続的な報酬を獲得する手法として仮想通貨の「ステーキング」が注目されています。ステーキング報酬には、預金利息や株式配当金のように銀行や証券会社が納税の手続きを代行してくれる仕組みがありません。そのため、必要に応じて自分で確定申告や納税を行わなければならないのです。
そこで今回は、ステーキングで得た所得についてどのような場合に確定申告や納税が必要なのか、必要な場合に計算はどうすればいいのか、わかりやすく解説していきます。
できる限り手間をかけずに行える簡単な方法も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
はじめに:ステーキングとは?
ステーキング(Staking)とは、保有する仮想通貨をロックすることでその金額に応じてブロックチェーンから報酬として仮想通貨を貰える仕組みのことです。
ステーキングの仕組みと、対象となる仮想通貨についてそれぞれ見ていきましょう。
ステーキングの仕組み
ロックした仮想通貨の量に応じて報酬を貰えるステーキングですが、そもそもステーキングをすることでなぜ報酬が貰えるのでしょうか。その理由は仮想通貨を動かすブロックチェーンの仕組みにあります。ブロックチェーンには中央集権的な管理者がいないため、ブロックチェーンの参加者が取引の承認や新しいブロックの生成を行っています。そして、そのブロックを生成する権利を誰が得るのかを決める仕組みのことをコンセンサスアルゴリズムと呼びます。
大切なブロックチェーンを作る作業ですから、出来るだけ信用できる参加者を選ぶ必要があります。そこでステーキングに対応した仮想通貨の場合、その仮想通貨の保有量が多い人ほどブロック生成権を得やすいように設計されているのです。
これはすなわち、仮に悪意の参加者がブロックの生成権を継続的に獲得(ブロックチェーンを支配)しようとしても、そのためにはステーキング全体の50%超を占める必要があり、莫大なコストがかかることを意味します。またブロックチェーンは誰もが内容を閲覧できる為、不正なブロックを生成してもすぐに明るみになり、仮想通貨の価格が暴落することが予想されます。そのため、不正を行うメリットがコストに見合わない仕組みになっているのです。
ステーキングを行うということは、ブロックチェーンの信用を担保する仕組みに貢献することであるため、そのインセンティブとして報酬を得られる仕組みになっているのです。
ステーキングに対応している仮想通貨
全ての仮想通貨がステーキングに対応しているわけではなく、「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake)」と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用している仮想通貨でのみステーキングを行うことができます。ステーキングを行える代表的な銘柄としてイーサリアム(ETH)やテゾス(XTZ)、シンボル(XYM)などが挙げられます。
一方、世界で最初に開発された仮想通貨であるビットコインなどは「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)」と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。こちらは強力な計算機を使用して複雑な暗号を解くことでブロックの生成権を獲得し報酬を貰える仕組みとなっており、これをマイニングと呼びます。
保有量に応じて報酬を貰えるのがステーキング、計算量に応じて報酬を貰えるのがマイニング、と覚えておくとわかりやすいでしょう。
ステーキングで得た利益にかかる税金
さて、ステーキングの概要について押えたところで税金の話に戻りましょう。
ステーキングで得た所得は確定申告の対象
日本の所得税法では、日本国内に居住している人が所得を得た場合、所得税を納付する必要があります。銀行預金利息であれば利子所得、株式の配当金であれば配当所得などといった所得区分があり、これらは他の所得と切り離して分離課税として処理される仕組みがあります。
しかし、ステーキング報酬はこれらとは税金の取り扱いが異なり、個人の趣味や副業でステーキングを行っている場合は雑所得に該当します。 そして、雑所得は総合課税の対象のため、給与所得などその他の所得と合算して税金を計算しなければなりません。そのための手続きが確定申告なのです。
確定申告が必要になる条件とは
通常、会社員などの給与所得者は勤務先で年末調整を行うことで、確定申告が不要となっています。いうなれば、年末調整は給与所得者にとって簡易的な確定申告の役割を果たしているのです。しかしステーキングの報酬やその他の副業収入など、給与所得以外の所得は年末調整では申告ができません。会社員であっても、給与所得と退職所得以外の所得(ステーキング報酬を含む)が20万円を超える場合は、確定申告を行う必要があります。
また個人事業主や被扶養者(専業主婦や学生など)の場合は、そもそも年末調整がありません。そのため、ステーキング報酬を含む所得の合計額が基礎控除額とされる48万円を超えると課税対象となり、確定申告が必要となります。
ここで注意が必要なのが、確定申告の要否は誰かが判断して知らせてくれるものではないということです。そのため、確定申告と納税の要否は自分でしっかり確認して判断しなければならず、うっかり申告漏れをしてしまうと、後になって税務調査で追徴課税などのペナルティを受ける事態になりかねません。ステーキングで得た所得は正確に把握して、確定申告や納税を忘れずに行うようにしましょう。
ステーキングで所得が発生するタイミングについて
ステーキングによる所得を正確に把握するためには、所得が発生するタイミングについて理解しておく必要があります。
ステーキングにおいては、次の2つのタイミングで所得が発生したとみなされます。
● ステーキング報酬として仮想通貨を取得した時 ● ステーキングで得た仮想通貨を売却・決済・交換した時 |
すなわち、ステーキング報酬として仮想通貨を受け取った時点の時価で一度所得が発生し、その後その仮想通貨を売却した際には、その取得原価と売却価額から生じる売却益が改めて所得となります。
ここは非常に注意が必要なポイントです。
なぜならば、ステーキング報酬を受け取ってウォレットに貯めているだけの状態であったとしても、受け取った時点の時価に応じた所得が発生しているとみなされ、日本円で課税されることになるからです。そして、雑所得として計上されるステーキング報酬を含む暗号資産の損益は年度を跨いだ繰越控除が認められていません。
つまり極端なケースとして、相場が高い時期にステーキング報酬を受け取り、翌年に相場が暴落してから売却してしまうと、実際に得られる利益よりも納税額の方が多いという事態が発生してしまう可能性があるのです。こうした事態を避けるには、相場下落時には年内のうちに売却することで損失を計上し、ステーキングの利益と相殺させることで課税所得を減らすという方法が知られています。
仮想通貨の損益に関しては、同一年度内の利益と損失は相殺可能になっているため、ステーキング報酬で得られた利益と、その後仮想通貨を売却したことによる損失計上は相殺できます。年度の利益(所得)を減らし、税金を減らすことができます。
ステーキングに限らず仮想通貨に関する所得全般に通じて言えることとして、常に現時点の取得価額や所得額を把握しておくことは、正確な確定申告のためのみでなく、適切な税金対策を判断するうえでも非常に重要であると言えるでしょう。
ステーキングの所得の計算
それでは、実際にステーキング報酬の所得の計算の仕組みについて見ていきましょう。
ここでは以下のサンプルケースに基づいて解説します。
年収500万円の会社員Aさんは、副業としてのステーキングを行っており、以下の取引を行いました。 ・10月15日 1ETH 20万円の時に1ETHの報酬を取得 ・11月15日 1ETH 22万円の時に1ETHの報酬を取得 ・12月15日 1ETH 25万円の時に2ETHを売却 |
ステーキング報酬の受け取りによる所得
サンプルケースでは、10月15日と11月15日にステーキング報酬を取得しています。
それぞれの収入金額は以下のようになります。
日付 | イーサリアムの時価 | 取得量 | 収入 |
10月15日 | 20万円/ ETH | 1ETH | 20万円 |
11月15日 | 22万円/ ETH | 1ETH | 22万円 |
この時点で、ETH1枚あたりの取得原価(簿価)は21万円となります([20万+22万]÷2枚=21万円)(※)。
注※便宜上、ここでは他にETHの取得履歴が一切無い前提でETHの取得原価を計算していますが、実際にはステーキングに使用したETHの取得コストも加味して計算されるため上記金額は変動します。
なお、所得を計算する際には収入から必要経費を差し引くことができます。
マイニングの場合は高価な計算機や多額の電気代などを経費として計上するのが一般的ですが、ステーキングの場合はこのような経費がほとんど発生しません。そのため、このケースでは必要経費をゼロとして考えることとします。
ステーキング報酬を売却して得た所得
次に、12月15日にステーキング報酬を売却した取引について見てみましょう。
日付 | 譲渡価額 | 取得原価(簿価)※ | 収入 | 必要経費 |
12月15日 | 50万円(25万円 x 2ETH) | 42万円(21万円x 2ETH) | 8万円 | 1千円 |
Aさんが売却したイーサリアムの取得原価(簿価)は1枚当たり21万円でしたので、21万円×2枚=42万円と、譲渡価額50万円との差額である8万円が売却益として収入となります。
注※便宜上、ここでは他にETHの取得履歴が一切無い前提でETHの取得原価を計算していますが、実際にはステーキングに使用したETHの取得コストも加味して計算されるため上記金額は変動しますのでご注意下さい。
上記はサンプルケースのみに着目して計算したものですが、実際には、ステーキングした仮想通貨を取得した際の取引や、ステーキング以外に行った過去全ての仮想通貨の取引を元に利益の計算を行う必要があります。
最終的にAさんは、ステーキング報酬として合計42万円(20万円+22万円)計上し、ステーキングで得られた仮想通貨の売却益として7.9万円(8万円-1千円)を計上するため、年度の合計として49.9万円の仮想通貨の利益を計上しました。
最終的に計算された利益額がAさんの給与所得500万円と合算され、給与所得控除などの所得控除を差し引いた課税所得に対して、総合課税の税率が適用されて納税額が決まることになるのです。
なお、そもそも確定申告を行ったことが無い、やり方がわからないという方もいるかもしれません。
確定申告の具体的なやり方については、以下の記事で詳しく解説されていますので参考にしてみてください。
仮想通貨の確定申告をラクにするなら「クリプタクト」がおすすめ
今回はわかりやすさを優先して、出来る限りシンプルなサンプルケースでステーキングの利益計算をご紹介しましたが、実際にはもっと大量の報酬発生や売却取引が発生することが一般的です。全ての取引履歴を収集し、手作業で利益を計算していくのはかなり負担の大きい作業となります。
そんな時に非常に役立つのが、仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」です。「クリプタクト」を活用することで煩雑な利益計算を自動化できるほか、現在の損益状況もリアルタイムで把握することができるため、確定申告の準備だけでなく、年内に節税対策を検討する上でも大変有効な情報となります。大きなコストをかけずに確定申告をラクにするなら、「クリプタクト」のご利用をぜひ検討してみてください。