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前書き

国税庁は2023年1月13日に「NFTに関する税務上の取り扱いについて(情報)」(以下、「NFT税務FAQ」)を公表しました。 
 NFTの税務に関するFAQは今まで公開されたことがなく、今回が初めての公表となります。

「NFTの税務に関する指針を公表してほしい」という声は多く、NFT取引をされている方、クリエイターとしてNFTを発行している方、NFTを使った事業をされている方などにとっては、待望の公表ではないでしょうか。

この記事においては、「問5 第三者の不正アクセスにより購入したNFTが消失した場合」について、仮想通貨やNFTの税務に精通している税理士が解説します。

NFTを狙った盗難案件は非常に多く、また盗難手法も日々高度になってきているため、NFTトレーダーやNFTクリエイターからのNFT盗難の被害の声は多いです。 
そのため、NFT盗難にあった際の税金計算上の救済措置が気になる方も多いかと思いますので、最後までご一読いただけると幸いです。

NFTの盗難に関する税務上の扱いについて

今回、国税庁から公表されたNFTの盗難に関する取り扱いは下記の通りです。

nft_faq_q5.png(NFT税務FAQより引用)

 

一見すると、NFTの盗難は必要経費もしくは雑損控除の対象と読めるかもしれませんが、細かく読むと条件が多く付与されています。 


実際には下記のようなフローで判定していくことになることとなります。

nft_faq_flow.png(筆者作成)

まずは、被害にあったNFTが「事業用資産等に該当するかどうか」の判定を行います。(これを仮に「ステップ1」とします) 


その結果、事業用資産等に該当するのであれば、盗難にあったNFTの損失額を必要経費として計上することができます。 
必要経費として計上することができれば、その分所得(利益)が減少することとなるため、税金が減り、税金計算上の救済措置となります。

そして、事業用資産等に該当しない場合は、被害にあったNFTが「生活に通常必要なモノ」に該当するかどうかの判定を行います。(これを仮に「ステップ2」とします) 


盗難被害にあったNFTが生活に通常必要なモノに該当するのであれば、その被害額を雑損控除として計上することができ、税金計算上の救済措置がされることとなります。

最後に、ステップ1及びステップ2の判定で、いずれにも該当しない場合は、NFTの盗難被害に関しては税金の計算上は救済措置なしとなります。

ステップ1:事業用資産等の判定の詳細

では実際に事業用資産等とはどのようなものでしょうか?

今回公表されたNFT税務FAQには、事業用資産の定義として下記が記載されています。 

nft_faq_q5_2.png(NFT税務FAQより引用)


「事業用資産とは棚卸資産又は業務の用に供される資産」と定義されています。 
こちらについての明確なところは記載されておりませんが、NFTを事業として行っている方(NFTクリエイターや、本業がNFTトレーダーなど)を対象にしているものと推測しています。

NFTを事業として行うためには、開業届や帳簿保存などの形式的な届け出・書類が必要になるだけでなく、社会通念上、事業として認められるかどうかの実質的な判断も必要になります。

私の見解ですが、多くのNFTトレーダーはNFTを事業として認められないこととなり、NFTは事業用資産等に該当しないと判断されるのではないかと思います。

社会通念上、事業として認められるかの実質的な判断についての詳細は、下記ブログにも記載していますので、ご参照ください。

 国税庁による仮想通貨に関する税務上の取り扱いが更新!事業所得の扱いについて仮想通貨を専門とする税理士が解説!

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ステップ2:NFTが生活に必要なモノかどうかの判定の詳細

次に、雑損控除の対象になる、生活に通常必要なモノに該当するかどうかの判定が行われます。

ここについては少しわかりづらいのですが、国税庁の意見としては、「生活に通常必要でない資産を除く資産を損失した場合、雑損控除の対象となる」という言い回しをしています。 
ややこしいために、生活に通常必要でない資産を除く資産=生活に通常必要なモノ、とこちらの記事では記載しています。

生活に通常必要でない資産とは、下記のように記載されています。 


nft_faq_q5_3.png(NFT税務FAQより引用)

 

要は、盗難にあったNFTが以下の①~③に該当する場合は、NFTは生活に通常必要なモノとして認められず、雑損控除の対象とならないこととなります。

【NFTが以下に該当する資産と見られれば、雑損控除を受けられない】 
①競走馬その他射こう的行為の手段となる動産 
②主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産 
③貴金属、書画、美術工芸品などで30万円を超える動産

①と③は動産となっており、NFTの性質から動産には該当しないと考えられます。
そのため、NFTが「②主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に該当するかどうかの慎重な検討が必要になります。

私の見解となりますが、ほとんどのNFTは生活に通常必要なモノとして認められないため、雑損控除の対象となる資産に該当しないと考えています。 
結果として、盗難被害にあったNFTを雑損控除として計上できないのではないかと考えています。

 

税金計算上の救済措置を受ける場合の留意点

補足となりますが、ステップ1もしくはステップ2に該当し、盗難被害にあったNFTについて税金計算上の救済措置を受ける場合には、実際に盗難被害にあったという客観的な証拠も必要になると考えます。

ここについては、この資料を残しておけばOKという明確な指針はなく、実際にどのような盗難被害にあったのか、どのようなブロックチェーン上の取引が行われたのか、などの客観的な盗難被害の証拠を積み重ねていくしかないかと思います。

 

税理士としての見解

以上が、今回公表されたNFTの被害についての税金計算上の扱いとなります。

このNFT税務FAQが公開されたとき、「NFT盗難にあった場合は、必要経費もしくは雑損控除として救済措置がある」という風に理解されたかもしれませんが、実際に税金計算上の救済措置を受ける場合にはかなり高いハードルがあります。

これは私の見解となりますが、NFTが盗難にあった場合、NFTトレードをされているほとんどの方は、税金計算上の救済措置がない(泣き寝入りせざるを得ない)こととなるかと思っています。

NFTを事業として行うことのハードルがまずありますし、NFTが生活に通常必要なモノとして認められるかどうかにもハードルがあります。さらに、複雑なブロックチェーン上での盗難被害をどのように証明するかについても難しさを感じます。

実務的には、税理士等の専門家と相談の上、慎重にNFT盗難について検討していくことを推奨します。 

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