2023年6月20日、国税庁より「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」が発出され、法人が保有する仮想通貨に対する課税の一部が緩和されました。この通達には、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が共同で取りまとめ、2022年7月29日に金融庁に提出した「2023年度税制改正要望書」の一部が盛り込まれています。
この記事では、今回の税制改正の概要、自社発行の仮想通貨を持っている場合にどのような影響があるのかについて解説していきます。
保有している自社発行トークンの含み益は課税対象外へ
現在の日本では、法人が保有している仮想通貨に期末時点で含み益が発生している場合、利益が実現しているとみなされ課税の対象となっています(期末評価課税)。また、法人が仮想通貨のプロジェクトを発足して、仮想通貨を発行し保有した場合も期末時点の含み益に課税されています。
しかし、今回の通達を受けてこれまでの税制の一部が緩和され、IEOやICOを行い自社発行した仮想通貨については課税対象から外れることになります。なお、IEOやICOについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
課税対象外になる条件は次の2点です。
1. 自社が発行した仮想通貨であり、発行したときから継続して保有しているものであること
2. 当該仮想通貨を発行したときから継続して以下のいずれかによって譲渡制限が付されているものであること
● ほかの者に移転できないように一定の技術的措置がとられていること
● 一定の要件を満たす信託の信託財産としていること
なお、課税対象外となるのは自社が発行した仮想通貨のみであるため、他社が発行した仮想通貨を保有している場合は、これまで通り課税対象となります。
税制改正による自社発行トークンを保有、保有予定の法人へのメリット
今回の税制改正によって、法人が仮想通貨を発行・保有するにあたって大きくふたつのメリットが考えられます。
法人が仮想通貨関連の事業を推進しやすくなった
これまでの日本の税制では、法人が保有している仮想通貨に期末時点において含み益が存在していると、課税対象となっていました。これは、仮に長期間保有することを目的とした仮想通貨であっても同様な取扱いとなり、かねてより問題視されていました。
しかし、今回の税制改正を受けて一定の要件を満たした場合、法人が仮想通貨を保有しており含み益が発生しても課税対象とはならなくなりました。その結果、法人が仮想通貨関連の事業に取組みやすくなったというメリットがあります。仮想通貨を取り入れた事業を行う環境が整備されつつあるといえるでしょう。
資金調達方法として仮想通貨を活用しやすくなった
これまでは法人が自ら仮想通貨を発行し保有する場合にも、期末時点で含み益が発生している場合は課税対象となっていました。資金調達をしたものの、まだ確定していない利益に対し税金を支払わなければならないのは、仮想通貨を発行した法人にとって負担が大きく、発行体は海外に流出する傾向が見られました。
しかし、今回の税制改正で自ら発行し保有する仮想通貨については期末時点で含み益が発生しても課税対象外になったことで、この点においては発行体が海外に流出する必要がなくなりました。このように、国内で仮想通貨を活用したプロジェクトが行われやすくなるというメリットがあります。
仮想通貨に関する税制の今後について
今回の税制改正で課税対象外となるのは、自社発行の仮想通貨を保有した場合であり、他社が発行した仮想通貨を保有し期末時点で含み益が発生している場合は従来通り課税対象となります。法人が仮想通貨を発行してプロジェクトを推進しやすくなる一方で、将来有望なプロジェクトに投資したベンチャーキャピタルなどは、受け取った仮想通貨について期末時点で含み益が発生している場合は課税対象になります。
そして日本暗号資産ビジネス協会と日本暗号資産取引業協会は2023年7月31日、「2024年度税制改正要望書」を提出しています。
そこには大きく「分離課税」、「法人税」、「資産税」、「暗号資産同士の交換」の四種類があり、以下の点が論点となっています。
●分離課税:仮想通貨取引の利益を現在の総合課税50%から申告分離課税20%に引き下げることや損失の繰越控除の適用
●法人税:他社発行の暗号資産を継続的に保有する場合の期末直評価課税の対象外とする
●資産税:相続により取得した仮想通貨を譲渡する際の計算方法の改正
●暗号資産同士の交換:暗号資産同士を交換した際には課税せずに、法定通貨に交換した時点で課税対象とする
分離課税や暗号資産同士の交換については個人の投資家にも関係が深く注目すべき論点といえるでしょう。
まとめ
2023年度の税制改正により、法人が発行・保有する仮想通貨について課税の一部が緩和されました。税制改正を受け、法人が仮想通貨を活用したプロジェクトを推進しやすくなり、国内でもさまざまなプロジェクトが行われることが予想されます。
しかし、今回の税制改正で課税が緩和されたのは自社発行の仮想通貨のみであり、他社発行の仮想通貨については、期末時点で含み益が発生している場合は課税対象となります。このルールも国内における仮想通貨の発展の足かせになっているため、今後の税制改正に期待したいところです。
なお、仮想通貨取引を法人で行う場合、期末時点の保有通貨について評価損益を算出する必要がありますが、仮想通貨に精通した税理士事務所はまだ多くありません。
損益計算ツールの「クリプタクト」であれば、法人としてアカウントを作成し、期末時点の保有通貨について、評価損益を算出することもできます。
また、エクセルで計算結果をダウンロードすることもできるため、通常お願いしている税理士さんとの相談もスムーズに行えます。無料で使えるプランもありますので試してみるのがおすすめです。