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概況

5月半ばに好調だった暗号資産市場に異変が起き、ビットコインは4月の高値から50%近く下落した。ビットコインは2017~2018年のブームの際に「億り人」という言葉まで生まれ暗号資産市場をけん引してきたが、その後2018~2019年は日本円で30万円から150万円での推移だった。2020年末に入り前回の高値(日本円で194万円台)まで回復すると、その後2021年に入り4月には日本円で700万円台の高値を付けた。

暗号資産へのエクスポージャーを望む投資家は多く、北米初のビットコインETFとなったパーパス・ビットコインETFには、トロント市場に上場した2月以降、およそ10億ドル(約1,100億円)の資産が流入している。米国のフィデリティなどの大手資産運用会社をはじめとして計6社が米SEC(証券取引委員会)にビットコインETFの承認を求めており審査に入っている。 

テスラCEOのイーロン・マスク氏の発言は暗号資産市場に大きな影響力を持っているが、5月13日にビットコインでのテスラ車の購入を停止したとの発言からビットコインの価格は急落し、一時3万ドル近くになり、他の暗号資産も大幅な価格下落となった。以降、暗号資産市場の動きに引きずられるように米国株式の値動きも大きくなっている。

日本株式についても暗号資産市場の動きと無縁ではない。弊社が独自に上場日本企業の決算短信をスクリーニングして調べた結果、金融業や投資事業とは無縁に思える企業までも暗号資産を所有している事が分かった。いわば隠れ暗号資産銘柄と呼んでもいいのかもしれない。これら暗号資産保有企業は売却をしなくても期末に時価評価益があれば課税をされるのだが、期末時点での時価が高く、実際の納税の時に暗号資産を売却し資金を作ろうとする時に大幅に下落しているというダウンサイド・リスクがある。

 

暗号資産保有銘柄

このレポートでは暗号資産保有の7銘柄について取り上げてみる。 
なお、暗号資産を保有していると思われる上場企業のリストも用意したので他銘柄については<表1>暗号資産保有上場企業リストに記載する。

 

①きちりホールディングス(3082)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
589円62億円N / A6.98倍

企業概要

2000年11月設立。高級居酒屋「KICHIRI」、ハンバーグ専門店、オムライス専門店等を直営展開、また飲食店プロデュース事業も手掛けている。 
純資産9億7,400万円(2021年6月期第三四半期末時点)

顧客の支払い手段の多様化に応えるために暗号資産による決済導入をしており、暗号資産を保有した結果、2021年6月期第3四半期決算で暗号資産評価益3,743万円計上した。同期決算の四半期損益(累計)は4億3,300万円の赤字だった。

新型コロナ発生以降、2020年6月期も赤字決算だったために利益剰余金が2020年第3四半期末時点の5億4868万円から2021年6月期第3四半期末時点で1億202万円まで低下している。負債は長期借入金が30億円増加し、2021年6月期第3四半期末時点で47億円となった。

新型コロナの収束がいつになるか分からない状況下での外食事業はどこも厳しい状況だが、顧客の利便性を高める目的で暗号資産での決済を取り入れた事が更なるダウンサイド・リスクにつながる可能性がある。法人として暗号資産を保有しているので、売却しなくても時価評価益に対して19~23.4%課税がされる。きちりホールディングスの場合は6月が決算期なので、3月末のビットコインの高値よりは価格が下がると思われるが、二期連続赤字計上に更にビットコインの時価評価益に対する納税負担は厳しいものになるだろう。

 

②コロプラ(3668)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
794円1,029億円N / A1.32倍

企業概要

オンラインゲームの開発・運営企業。VR事業、投資事業も行う。 
純資産767億2700万円(2021年9月期第二四半期末時点)

コロプラは任天堂より特許侵害で訴えられている。任天堂は2016年9月から計5件の特許の侵害を指摘してきた。任天堂は個別にコロプラと交渉をしてきたが、折り合わずに2017年に訴訟を提起し、以降4年に及び係争中である。損害賠償請求額は96億9,900万円だが、コロプラはまだ引き当てを積んでいない。コロプラの2021年9月期第2四半期決算の四半期純利益(1Q~3Q累計)は40億円で、損害賠償請求額はこの約2.5倍と多額である。

問題のコンテンツはコロプラの代表的なIPタイトルの「白猫プロジェクト」で、任天堂は配信差し止めも求めている。このような状況にあるコロプラだが、2021年9月期第2四半期決算で暗号資産売却益5億4,200万円計上した。コロプラは投資事業も手掛けているが、投資事業の一環として暗号資産投資をしているのかは決算資料、会社のHPを見る限り不明であり、あとどの位暗号資産を保有しているかは不明である。コロプラの場合は2021年9月期第2四半期末時点で現預金を623億円保有しているために、暗号資産関連の税務負担は大きなリスクではないと思われるが、任天堂による訴訟で代表的なIPタイトルを配信できなくなるとすると打撃は小さくないと思われる。

 

③フィスコ(3807)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
188円86億円9.84倍4.34倍

企業概要

金融情報提供が柱。持分会社傘下に暗号資産交換所「Zaif」。また、フィスココインを発行している。(時価総額4,500万ドル) 
純資産20億500万円(2021年12月期第1四半期末時点)

Zaifの親会社であるため隠れ暗号資産銘柄というわけではないが、参考までに列挙した。フィスコは前期(2020年12月期)は黒字を確保したが、2019年12月期、2018年12月期と赤字決算であった。暗号資産の自己勘定投資を行っているが、フィスココインの他の暗号資産の投資をしているかは不明。2021年12月期1Q決算に暗号資産評価益で55万7,000円計上。暗号資産売却益で9,995万円計上。

今期決算は持分法適用会社のZaif Holdingsの投資利益の貢献が大きく、当期利益8億7,300万円の黒字予定なので、暗号資産売却益にかかる税金が大きなダウンサイド・リスクになる可能性は低そうである。

 

④リミックスポイント(3825)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
166円166億円7.61倍3.79倍

企業概要

暗号資産交換所「ビットポイント」を運営。電力小売り、中古車売買、ホテルの企画開発も手掛けている。 
純資産43億2200万円。(2021年3月期末時点)

こちらもビットポイントの親会社であるため隠れ暗号資産銘柄というわけではない。リミックスポイントは三期連続で赤字を計上している。暗号資産交換所のビットポイントはハッキング被害にあっており、金融庁から業務改善命令を受けたが、セキュリティに対する信用の低下もあり苦戦している。2021年3月期決算で自己保有暗号資産として31億7,600万円を計上しており、自己勘定のポジションであれば、純資産対比でみると相当なエクスポージャーである。

しかし、暗号資産の時価評価益の計上はしておらず、自己勘定として暗号資産を保有しているとしたら3月末時点で相当な評価益が出ているはずであり、これにかかる税金は多額になると推測されるが、詳細は不明である。業績不振が続いた結果、自己資本比率は2021年3月末時点で9.2%まで低下した。昨年に続き第三者割当による新株予約権の発行で約25億円の資金調達予定であるが、自己勘定で31億円分を保有している場合、自己資本対比ではかなりのマーケットリスクをとっている可能性がある。

 

⑤Eストアー(4304)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
2,043円110億円13.83倍4.37倍

企業概要

EC総合支援サービス展開。純資産23億4300万円(2021年3月期末時点)

2021年3月期に暗号資産評価益で9,560万円計上。また、バランスシート上で暗号資産1億660万円計上。保有する暗号資産はビットコインとビットコインキャッシュ。Eストアーの場合は顧客の利便性のために2017年より通販の決済でビットコインを導入しているので投資目的などではない。成長するEC市場でBASEのような派手さはないが、2016年から着実に利益を出しており、暗号資産への課税がダウンサイド・リスクになるとは考えづらい

 

⑥ネクスグループ(6634)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
173円26億円N / A5.24倍

企業概要

通信機器開発企業であるが、旅行事業、衣料、雑貨販売も手掛ける。暗号資産、ブロックチェーン事業も手掛けている。旧称本多エレクトロン 
純資産11億8,900万円。(2021年11月期第1四半期末時点)

2015年以降ずっと経常赤字が続いている。2017年11月期のみ特別利益で黒字決算となったが、以降ずっと赤字を計上している。その結果前期末時点で自己資本比率は2.2%まで低下したが、以前フィスコの子会社だった事もありフィスコ株式を譲渡し、今期2021年11月期第1四半期末に10.2%まで回復した。

財務的に厳しいために2020年5月に発行した無担保社債(2億円、年利2%)の償還期限を2021年5月31日から2021年8月31日に延長した。バランスシートを見ると投資有価証券16億円が最も換金性が高いのでおそらく社債の償還のために一部売却して資金を作るのかと推測する。2021年11月期第1四半期決算では流動資産として暗号資産4,633万円、暗号資産評価益で1,103万円を計上した。

資本金の4倍の暗号資産のエクスポージャーで暗号資産にかかる税金は更なるダウンサイド・リスクになるだろう。

 

⑦ネクソン(3659)

株価(2021/5/31)時価総額予想PERPBR
2,584円2.2兆円N / A2.94倍

企業概要

オンラインゲームの開発・配信。韓国のNXC Corporationの子会社。 
純資産7,833億円。(2021年12月期第1四半期末時点)

直近決算のBS、PLに載っていたのではないので特別枠として当該銘柄も入れる事にする。直近の決算短信に後発事象として、“当社は、2021年4月2日の取締役会決議に基づいて、同年月に約111億円(1億ドル)のビットコイン(暗号資産)を購入しました。”とあったので第2四半期の決算短信には記載されるだろう。ビットコインの購入については投資目的なのか顧客の決済目的なのかは不明である。

 

<表1>暗号資産保有上場企業リスト(2021年5月リサーチ時点最新情報)

※2021年5月末クリプタクト調べ

 

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